公務員には出向がある
数年前に流行った某メガバンクのドラマで、 「出向=左遷」というイメージがついており、ネガティブな印象の強い「出向」ですが、 公務員の出向はむしろ「栄転」という位置づけです。
基本的に出向する人は将来を期待されている人です。
そんな公務員の出向について、現役の市役所公務員であるススムが解説します。
研修派遣と被災地派遣の2種類が存在する
公務員の出向には、「研修派遣」と「被災地派遣」の2種類が存在します。
研修派遣
ひとつめは研修派遣です。この研修派遣はさらに2種類に分類できます。
民間企業などへの研修派遣
民間企業へ出向して相手の職場の内情を知ったり、仕事上のコネクションをつくることを目的とした出向です。
出向先の組織の一員として業務に携わります。
期間としてはだいたい2年間程度の出向が多いです。
公務員なので、おなじように公益性の高い職場へ出向することが多いです。
出向先としては、国、都庁、独立行政法人、公益財団法人や民間企業等などさまざまな外部機関に派遣されます。
業務内容は千差万別ですが、特に出向してきたからといって、お客様として特別扱いされるようなことはありません。
出向先の業務が大変でメンタルをやられてしまう職員も少なからずいるようです。
反対に、出向先が気に入ってそのまま出向先に転職してしまう人もいます。笑
大学への研修派遣
大学や大学院などで勉強することを通して、役所の政策形成などに役立てることを目的とした出向です。
研修先では、在学生として政策や実務に関する研究を行います。
大学で勉強することが仕事であるため給料をもらいながら勉強できます。
市役所の場合は、出向先として政策研究大学院大学(港区にある政策形成を専門とする大学院)など政策を専門とする大学院への派遣が多いです。
社会人になってから給料を得ながら勉強する環境はほんとうにほんとうに貴重です。
実際に私の市役所では、毎年選ばれた1名のみしかこの大学院研修派遣へ行くことができません。
大学院などへの派遣は、大規模な組織ほどのほうが豊富な枠を持っています。(国>都道府県>市区町村)
国家公務員であれば、なんとシンガポールの国立大学など海外の大学へ行けるだけでなく、研修期間も最長3年間である長期間のプログラムが用意されています。
特に、大学への研修派遣へ生きたい人は国家総合職などが狙い目です。
被災地派遣
もう一つの出向は被災地派遣です。
被災地派遣は、その名の通り被災した地域の復興を目的とした出向です。
近年では、東日本大震災で被災した福島県、熊本大地震で被災した熊本県に現地の応援として被災地派遣がありました。
被災地派遣では、被災者の支援や街の復興業務に従事します。
私の同僚は出向した際に、被災して家を失った人へ仮設住宅の入居の申請手続きのお手伝いなどをしていました。
民間企業への研修派遣とは異なり、被災地派遣は被災地の応援のために「役所同士の善意」で出向をするので、「お客様待遇」として迎えられることが多いです。(せっかくの善意で出向してきた職員を使い倒して心身を壊したら、次回以降応援してくれなくなってしまいます。)
そのため業務はそこまで忙しいことは少なく、基本的に定時で上がれることが多いようです。
派遣期間は被災規模によって2週間〜3年以上
派遣期間は2週間〜3年以上と非常に幅広いです。
派遣先の被災規模が大きいほど派遣期間が長くなる傾向にあります。
近年で、津波などによって最も被災状況の深刻だった、福島県や宮城県の場合、最長で5年間近く派遣されている職員もいました。
また、熊本大地震の際は、だいたい2週間〜半年間程度の派遣期間でした。
反対に、被災規模の小さい千葉県の台風被害などは物資を届けるために日帰りで業務を行いました。(日帰りなのでもはや出向というより出張)
被災地の復興状況によって派遣期間が長くなったり、早まったりすることもあります。
被災地派遣には手当金が支給される
日額で約3000~4000円程度の「災害派遣手当」という手当金が支給されます。 (手当金の額は役所によって異なります)
本拠である自宅を離れて業務に従事するための手当金です。
月21日勤務で1日4000円支給されるとすると、月額84000円多くの給与を得ることができます。
被災している方がいるなかで大きな声では言えませんが、普段行くことのないような遠隔地へ出張できるため意外と人気のある出向です。
どんな人が出向に選ばれる?
研修派遣の場合
研修派遣は業務成績が優秀な人が選ばれます。
役所の代表として出向先に出向くため、外に出しても恥ずかしくない人材が選ばれる傾向にあります。
研修派遣に抜擢されたら、誇っていいことだと思います。
(ただし、不人気の出向先だと成績に関係なく希望者が出向します)
被災地派遣の場合
被災地派遣は出向を希望している人が選ばれます。
被災地派遣は基本的に被災地へ行くことに同意した人が優先的に選ばれます。
被災地派遣は、危険が伴い、また家族とも離れ離れで生活する必要があるため、強権的に出向の辞令を出すケースは非常にまれです。
少なくとも、私の市役所では面談などで同意を得た人しか出向の対象に選ばれません。
出向はいいことづくめ
外部の仕事を知ることが出来る
公務員の仕事はルーティーンワークが多く、真新しい仕事や経験をする機械が少ないです。
そのため、出向によって日常的な業務とは異なる新しい業務に携わることが出来るのが最大のメリットです。
実際に、私の周囲で出向した職員はほとんどが口を揃えて「やりがいがある」「楽しい」といっています。
出世コースにのりやすい
出向を経験した多くの職員が出世ルートへ配属される傾向が強いです。
出向を経験すると「外部の環境で一定の成果を出せる職員」として評価してもらえます。
私の市役所では、花形である企画課などへの配属が特に目立ちます。
(そもそも出向対象者として選ばれる時点でもともとある程度評価されている部分もありますが、、)
外部にコネクションを作れる
外部の人たちとコネクションを作れるメリットがあります。
出向先を受け入れている組織はたいてい自分と同じようによその職場から出向してきた人が多く存在します。
そこで作ったコネクションは出向元の職場に戻ってからも役立ちます。
役所の垣根を越えて仕事の助け合いをしているケースもちょこちょこ見かけます。
また、全く異なるバックグラウンドをもった人達と交流できることは自分の人生観にとっても大きなプラスとなります。
東京都のオリンピック委員会に出向している職員によると、かつてオリンピックでメダルを取ったような大物が気さくに挨拶してくれたり、オリンピック委員会から視察に来るネイティブのアメリカ人を接待するなど、普通では絶対に味わえないような刺激的な経験をしているようです。
恋愛・結婚相手が見つかる
恋愛や結婚相手を見つけられるのも大きなメリットです。
公務員は役所内で仕事が完結することが多く、内向きになりやすいため出会いが少ないです。
また、「同じ職場の人と付き合うのは、別れた時に気まずくなるリスクがあってちょっと戸惑うな、、、」という人もいると思います。
出向することでいろいろな人と出会うことができます。
実際に、私の職場では昔出向した際に知り合った都庁職員と結婚した、というような話もよく聞きます。
出向は昔から公務員の間では出会いの鉄板ルートです!
出向にはデメリットもいくつかある、、、
(民間企業への研修派遣の場合)忙しい職場が多い
民間企業への研修派遣は仕事が忙しいケースが多いです。
出向先の機関も、ある程度優秀な人が出向してくることをわかっているため、人並み以上に業務をこなしてくれることを期待しています。
また、わざわざ業務の研修しに来た職員を暇な部署で遊ばせているのでは、出向の意味がありませんし、相手に対しても失礼です。
そのため、大抵の職場が通常より忙しいです。
実際に私の職場で出向している職員もたいてい残業必至です。
中には業務量が多すぎてメンタル面をやられてしまう人もいます。
(出向先が遠距離であれば)家族や友人と離れ離れになる
被災地派遣などは、出向先が遠隔地に存在することが多く、家族や友人と離れ離れになるデメリットがあります。
住み慣れた環境を離れて長期間働くのは多少なりともストレスがかかるものです。
また、結婚している職員の場合、出向によって家族にも大きな影響があります。
そのため、自分にとっても周囲の人にとってもある程度の準備や覚悟をしておく必要があります。
まとめ
それでも出向の機会があれば参加したほうがいい
私の周囲を見る限り、出向は総じてプラスに働くことが多いです。
周囲には、出向に行ってよかったと思っている職員ばかりですし、出向は選ばれた数少ない職員しか参加することができない非常に貴重な機会です。
やってみて後悔したとしても、それはそれで貴重な経験として長い人生の糧となると思います。
ぜひ出向の機会があれば参加してみることをオススメします。
ご覧頂きありがとうございました。