広域異動手当とは?
広域異動手当とは、人事異動などにより広範囲にわたって勤務先の物理的な距離の変更を伴う公務員に支給される手当です。
広域的な転勤のある民間企業の従業員の賃金水準は、平均的な民間企業水準より高いことを理由としています。
(そもそもとして、広範囲の異動がある民間企業は経済的・精神的な負担をかけるため給与水準が高く設定されているため、そういった負担を和らげる目的もあります)
広域異動手当の支給条件
広域異動手当を受給するためには以下の条件を満たす必要があります。
- 異動前と異動後の官署間(勤務先)の距離が60km以上離れること
- 異動した日から数えて3年間以内
異動前と異動後の官署間(勤務先)の距離が60km以上離れること
ひとつ目の条件として、異動前に勤めていた役所と、異動後に勤めることになる役所の距離が60km以上離れていることです。
60km以上勤務先が離れると通勤に最低でも片道1時間以上かかり、物理的な通勤が難しくなることが理由として挙げられます。
この60kmというのは直線距離ではなく、合理的な移動手段を用いて60km以上離れているかどうかを判断します。
異動した日から数えて3年間以内
ふたつ目の条件として、広域異動手当が支給されるのは異動した日から数えて3年間以内であることです。
3年も経てば、異動後の環境に慣れているため手当の支給が必要ないからです。
ただし、3年以内に再度60km以上の異動が生じれば、再度広域異動手当が支給されます。
広域異動手当の支給額
給料月額+俸給の特別調整額+専門スタッフ職調整手当+扶養手当
の合計額に対して、以下の割合で手当が支給されます。
- 官署間の異動距離が60㎞以上300㎞未満:5%
- 官署間の異動距離が300㎞以上:10%
ここでのポイントは、算定額に扶養手当が含まれている点です。
(俸給の特別調整額・専門スタッフ色調整手当はほとんどの国家公務員には関係しません)
つまり、結婚していて配偶者や子供を扶養している場合、広域異動手当の支給額が大きくなります。
例えば、以下のケースを想定します。
- 4年生大学卒:給料月額182200円
- 官署間の異動距離が300km以上:広域異動手当10%
この人が独身者の場合
- 182200円(給料月額) × 10%(広域異動手当) = 18222円 (端数切捨て)
となり、月額18222円の広域異動手当が支給されます。
一方で、この人が結婚していて子供が1人いる場合、
2人分の扶養手当である16500円が加算されるため、
( 182200円(給料月額) + 13500円(扶養手当) ) × 10%= 19570円 (端数切捨て)
となり、月額19570円の広域異動手当が支給されます。
結果として、扶養手当の有無により、年額2.2万円以上の差額が生じます。
これは新卒の給料ベースで考えた場合なので、もっと年次が上がり、扶養している子供の数が多ければその分広域異動手当の受給額も大きくなります。
広域異動手当が支給されないケース
【悲報】広域異動手当は地方公務員には支給されない
残念ながら広域異動手当は、地方公務員には支給されません。
広域異動手当について地方公務員法で定められていないからです。
北海道のようにもともと広い土地の都道府県庁などは、異動によって引越しが必要なケースもあります。
もちろん引っ越し費用なども掛かるため、広域異動手当の支給は当然必要かと思いますが、現状は国が地方公務員への広域異動手当の支給を認めていません。
広域異動手当と地域手当は重複して受給できない
広域異動手当は地域手当と重複して受給できません。
(地域手当とは、物価の高い地域に住んでいる公務員に対して支給される手当です。 詳細はこちらの記事で解説しています)
広域異動手当と地域手当がどちらも支給されている場合、広域異動手当から地域手当を差し引いた額を支給します。
例えば、広域異動手当10%、地域手当3%の支給条件を満たしている場合、
地域手当3% + 広域異動手当7% (広域異動手当10% – 地域手当3%)
となり、実際に受給されるのは給料に対して合計10%分の手当です。
また、地域手当の額が広域異動手当を上回る場合、広域異動手当は支給されません。
例えば、広域異動手当:5%・地域手当20%の支給条件を満たしている場合、
地域手当:20% + 広域異動手当0% (広域異動手当:5% – 地域手当20%)
となり、地域手当20%のみが支給されます。
広域異動手当は重複して支給されない
広域異動手当は重複支給されません。
広域異動手当の支給が重複して発生する具体的なケースは、
「①勤務先Aから60km以上離れた勤務先Bへ異動」した後、
「②勤務先Bから60km以上離れた勤務先Cへ異動」したケースです。
このケースで、①と②両方の広域異動手当を認めてしまうと、広域的な異動を何度も行うことで、手当を不正受給できてしまうからです。
この場合、広域異動手当の支給額によって以下のとおり分類されます。
A→Bの広域異動手当額 ≦ B→Cの広域異動手当額
- A→Bの広域異動手当:支給されない
- B→Cの広域異動手当:支給される
A→Bの異動手当額 > B→Cの異動手当額
- A→Bの広域異動手当:支給される
- B→Cの広域異動手当:支給されない
B→Cの広域異動手当の額がA→Bの広域異動手当の額以上の場合、B→Cの広域異動手当のみが支給されます。
一方で、B→Cの広域異動手当の額がA→Bの広域異動手当の額未満の場合、A→Bの異動手当のみが支給されます。
具体例として次のケースを考えてみます。
- ①東京→北海道へ異動
- ②広域異動手当の支給期間である3年以内に、再び北海道→沖縄へ異動
上記のケースでは、「①東京→北海道」と「②北海道→沖縄」でいずれも広域異動手当が10%なので、
沖縄へ異動した日から「②北海道→沖縄」に該当する部分の広域異動手当だけが支給されます。
短期間の研修のための異動は広域異動手当が支給されない
短期間の研修を受けるための異動の場合も、広域異動手当は支給されません。
具体的には次の条件をすべて満たす場合です。
- 6ヶ月以内の研修に伴う異動である
- 研修後に元の職場に戻ることが予定されている場合
要するに、
「研修後に元の職場に戻ってくる予定なんだし、しかも短期間だけだから、本人の負担も少ないしわざわざ手当出さなくてもいいよね」
という考え方をとっています。
例えば、国家公務員の場合、財務局に採用されると最初の2か月間は都内にある合同研修所で全国各地の新人財務局職員と合同研修を行います。
もちろん、 関東財務局以外の人は都内に「異動」という形で研修を受けます。
研修了後は全国各地の財務局へ異動戻っていくことになりますが、この場合は広域異動手当が支給されません。
【まとめ】広域異動手当は国家公務員の特権!
国家公務員は全国単位で異動がある組織です。
優秀な人材は地方の出先期間から、いきなり東京や大阪などの大都市圏の中枢組織に呼ばれることもあります。
広範囲な異動は国家公務員の本人だけでなく、周囲の家族などにも少なからず影響を与えます。
地方公務員のように市区町村内や都道府県内だけはありません。
そういった意味では、広域異動手当は広範囲の異動を常とする国家公務員にだけ与えられた特権かもしれません。
ここまでご覧いただきありがとうございました。